筬矢トレーナーロングインタビュー
2025年12月にUGMトレーニングの概論が学べる「One dayセミナー」が開講されますので、今回その特集として筬矢トレーナーのロングインタビューを行いました。今回は後編となります。
【目次(後編)】
■U.G.Mトレーニングでは力を抜くことが大切
■トレーニングで筋肉が伸ばされるとか、その力を利用するというのが、今一つイメージできないのですが…?
■昔の日本人ができていた理想的な動き方
■なぜ現代の日本人は昔の理想的な動き方ができなくなったのか?
■西洋式の筋トレと、西洋人・日本人の骨格違いについて
■姿勢や動作がパフォーマンスに影響することについて
■「見せるための筋肉」ではなく、「使える筋肉」を鍛える
■トレーニングの効果を上げて行くための「胸腰椎移行部の伸展」と「骨盤の前傾」について
■2026年1月開講のU.G.Mトレーナー養成本講座について
■U.G.Mトレーナー養成講座 概論One dayセミナーについて
■講座にはどんな方に参加していただきたいですか?
■U.G.Mトレーナー養成講座を開講する理由と想いについて
【Q:U.G.Mトレーニングは力まずに行うことが大切というお話しですが、その理由はなんでしょうか?】
U.G.Mトレーニングでは最初に負荷を受けることから動作が始まります。
身体にかかる負荷によって、まず関節を動かしてもらうのですが、これは筋肉が力を発揮する際に❝伸ばされた筋肉の張力❞を利用するためです。
筋肉の活動は悩や脊髄といった中枢神経系からの信号を受けて収縮し、その収縮力で骨を動かすことで関節の運動を司っています。
このように筋肉は神経系からの刺激を受けることで収縮するのですが、収縮することはできても、伸張することはできないんです。
つまり、筋肉が伸ばされるためには、何らかの外力が必要になる。
U.G.Mトレーニングで、動作のはじめに負荷を受けるのは、その負荷によって関節が動かされることで、その関節をまたいで付く筋肉を伸ばしてもらうためなんです。
なので、その筋肉に力みがあると、スムーズな関節の動きは妨げられてしまう。当然、筋肉も伸ばされにくくなり、十分な張力が引き出されなくなってしまう。
東洋医学には、「陰陽学説」といったものが基本的な思想としてありますが、「陰主陽従(いんしゅようじゅう)」といって、陽(外なるもの)は陰(内なるもの)に従うという考え方があります。
身体の力の発揮においても、外的な負荷が身体内部(陰)にかかることで、はじめて外側へ向けた出力(陽)が引き出されるといった考え方もできますね。
【Q:トレーニングで筋肉が伸ばされるとか、その力を利用するというのが、今一つイメージできないのですが…?】
例えば、お尻の筋肉は、骨盤の後面で骨盤の骨と大腿骨(太ももの骨)をつないでいます。
この筋肉の付き方から、股関節が曲がればお尻の筋肉は伸ばされます。
自重で行うスクワットは上半身の体重が負荷となりますが、お尻を後方に引きながら脚の力を緩めてしゃがむと股関節は屈曲し、お尻の筋肉は伸ばされます。つまり、体重にかかる重力によって、股関節が曲げられ、お尻の筋肉が伸ばされるわけです。
伸ばされることで張力が生じたお尻の筋肉は弾性エネルギー(元の状態に戻ろうとする力)によって、収縮に転じ、股関節を再び伸展させ、立ち上がり動作に貢献します。
また、こういった筋肉の出力形態では、「伸張反射」といった神経系の反射機能がはたらきます。
この作用では、力を発揮する筋肉に対して反対のはたらきをする筋肉が自動的に緩みます(拮抗抑制)。
つまり、ある動きに対して、それを邪魔してしまうような筋肉の力み(共収縮)が抑制される。
これによって、関節はスムーズに動き、素早い動きや瞬発的な力の発揮が行いやすくなるんです。
【Q:なるほど、重さを受けることで筋肉の張力を引き出すということが、なんとなくイメージできました。】
❝重力を利用した動作❞というのは、❝筋肉の張力を利用した動作❞であるとも言えるかもしれません。
【Q:以前、大野トレーナーの記事で、「本来昔の人は元々このような動きができていた」というお話しがありましたが…?】
はい、おそらくできていた人が多かったんだと思います。
背中が丸まり、骨盤が後傾した姿勢は現代人に多く見られますが、これは、スマホの普及やデスクワークを中心としたワークスタイルなど、生活様式による影響が強く反映されていると考えられます。
この「猫背」、「骨盤後傾」といった姿勢は、骨格のバランスを崩し、膝や腰、頸肩部への荷重ストレスを強めます。そして、これらの部位の筋肉は疲労して凝り固まる。
U.G.Mで考える良い姿勢は、肩甲骨が腕の重さによって後下方に下がり、身体の下方へと続く連動により、胸腰椎移行部(第11胸椎~第1腰椎)が伸展し、骨盤が前傾します。
この肢位では、骨格のバランスが整い、いわゆる「骨格立ち」ができるようになるため、無駄な筋力に頼る必要がなくなります。つまり、楽に立位姿勢を保つことができる。

このような姿勢は「古武術」で言う基本姿勢にとても近いものだと考えられます。
「古武術」で言われる姿勢や身体の動かし方は武術家だけではなく、当時の日本人の動作の基本とされていたようです。
昔は車や電車などの交通手段が発達していなかったため、基本、ヒトの移動は自らの足でした。
例えば、江戸時代の飛脚は一日200kmもの距離を荷物を背負って走ったと言います。
栄養状態や履き物など、今ほど充分ではない環境で、それだけの距離を走れたというのは、相当、身体の使い方が上手だったんじゃないかと思います。
重力に抗うように地面を蹴りつけて走っていたのでは、すぐに疲れてしまいます。重心移動をうまく使って、洗練された省エネ走法で走っていたのでしょうね。
【Q:昔の人は身体の使い方が上手だったんですね。】
そういう人が今よりも多かったんだと思います。
栄養状態や、体格も現代の人ほど満たされていなかったでしょうし、小さな身体で、省エネで十分に力を発揮するためには、筋力などの体力要素で負荷を処理するよりも、重心の移動や身体の連動性を上手に使って、❝無駄のない動作❞で対処していたのではないかと思います。
【Q:昔の人ができていたであろう姿勢や動作が、なぜ、現代の人たちはできなくなってしまったんでしょうか?】
ひとつは、交通手段の発達や生活がどんどん便利になっていったということがあるでしょうね。
日常生活で昔ほど身体が酷使されなくなって、多少、姿勢が崩れていたり、体の使い方が悪くてもそれほど困らなくなったということがひとつの要因だと思います。
現代は、スマホの普及であったり、デスクワーク中心のワークスタイルなども、運動量の減少に拍車をかけていますし、❝姿勢の崩れ❞にも多分に影響していますよね。

現代の生活様式が、今の人達に多く見られる「猫背」、「骨盤後傾」といった不良姿勢を招く大きな要因になっているんだと思います。このような姿勢だと、良い動作を行うことは難しくなりますね。
【Q:なるほど、生活様式の変化ということですね。トレーニング方法も昔と今では違うのでしょうか?】
昔は、移動するにしても、家事や仕事にしても、直接、体を使う場面が今よりも断然多かったでしょうから、生活すること自体が良いトレーニングになっていたんだと思いますよ。
家事や仕事はできるたけ楽に済ませたいじゃないですか。そうすると、いかに身体に負担をかけずに、疲れずに動けるかということを考えますよね。
そういう意図をもって日常生活を行うことで、上手な力の使い方や身体の動かし方が自然と身について行ったんじゃないでしょうか。
競技も武道が中心だった時代では、「型」を重視することで、よい姿勢や、そこから生まれる理に適った動作が身に付きやすかったんだと思います。
今、一般的に行われている、いわゆる「筋トレ」はもともと西洋から入ってきたものなので、そのやり方も基本的には西洋式です。
通常の「筋トレ」は身体に負荷をかけて、その負荷に負けないように❝抵抗する力をつける❞ことが目的ですよね。
これに対し、「古武術」などに見られる日本式の鍛錬法は、いかに身体に負担をかけずに効率よく力を発揮できるかといった、❝合理的な動作の修得❞が目的でした。
目的が違えば、アプローチの仕方も当然違ったものになりますよね。
現代は、オリンピックやワールドカップなど、世界と戦う機会が増えて行くなかで、外国人選手との体力的な差を突き付けられる。
そうすると、❝追いつかねば❞ということで、欧米人がやっているトレーニングをそのまま導入して、トレーニングで扱える負荷を同等レベルまで引き上げようとする。
ただ、そこに落とし穴があります。
【Q:具体的にどういうことでしょうか?】
確かに、扱える負荷の大小も大事なんですが、それ以上に、❝どのような動き❞で負荷を処理しているのかということ、つまり、❝身体の使い方❞がとても大切なんです。
ここが抜けたまま、ただ、大きな負荷を扱うことを第一義にしてしまうと、トレーニングで獲得した能力を競技動作になかなか活かせない。
そればかりか、不合理な力の発揮の仕方が身についてしまい、かえって動作を崩してパフォーマンスを落としてしまうことになりかねないんです。
場合によっては、故障につながる。
今年は東京で世界陸上が行われましたが、それを見て、改めて強く感じたのは、外国人選手と日本人選手の骨格の違いです。
それはサイズだけではなく、それ以上に❝骨格の位置の違い❞、つまり❝姿勢❞です。
特にアフリカ系の選手達の下部胸椎から胸腰椎移行部にかけての伸展の度合いと、骨盤の前傾の程度がすごい。
実は、この姿勢は、重力下での力の発揮において、非常に有利にはたらきやすいんです。
❝強さを裏付ける姿勢❞と言ってもいいかもしれません。
【Q:姿勢が動作やパフォーマンスに影響するということですか?】
はい、確実に影響します。
以前、陸上短距離の日本人トップ選手とアフリカ系の世界トップ選手の実力の差を解明するために、筋肉のサイズが比較されたことがあったんです。
最もサイズの差が大きかったのが大腰筋ということでした。その差は、なんと3倍もあったようです。
もちろん、この筋肉のサイズの違いだけが、パフォーマンスの差をすべて説明するものではないのですが、同じ筋肉でこれだけ大きな差が生まれる背景にあるものについては、一考に値しますよね。

大腰筋はお腹の深いところで、第12胸椎を頂点に、その下方に続く第4腰椎まで付いています。
そして、下方へ走り、股関節の前方を通って大腿骨の内側上方に付きます。
これは、体幹の骨と下肢の骨を直接つなぐ唯一の筋肉で、体幹と脚、また体幹を介して腕と脚の連動において、非常に重要であることを意味しています。
この筋肉の骨への付き方から、走る動作では、後方から前方に脚が振り戻されるときに強くはたらく筋肉だと考えられます。
この筋肉の大きさが何故こんなにも違うのか?
これは、人種間の先天的な筋サイズの違いによるものなのか…?
確かに、それがないとは言いきれませんが、私はそれ以上に走る動作の違いが大きく影響していると考えています。つまり、世界のトップ選手は大腰筋の活動が高まりやすいフォームで走っている。
そのため、大腰筋が自然と発達し、その爆発的な出力で脚を前方へ振り戻すこどができる。
どういうことかと言うと、アフリカ系選手に特徴的に見られる姿勢、❝胸腰椎移行部の伸展❞と、それに連動した❝骨盤の前傾❞。
これが強調された姿勢で走った場合、胸腰椎移行部と大腿骨をつなぐ大腰筋は、脚が後方へ移動する際、非常に大きく、また強く伸張される。
大きく強く伸ばされた大腰筋は、弾性エネルギーと伸張反射の作用によって、強力な力を瞬発的に発揮することができるため、脚の前方への振り戻しは非常にパワフルに行われる。
走動作で活動が高まる大腰筋は、当然、走るほどに大きく発達しますよね。
アフリカ系の選手は、股関節ではなく、鳩尾あたりから脚が前方に振り戻される感覚なのかもしれません。
支持脚においても、この姿勢は非常にポジティブにはたらきます。
骨盤の前傾が伴った状態で着地を迎えると、着地時にかかる体重(重力)が股関節の屈曲を高め、殿筋やハムストリングスの張力を強く引き出します。
この張力により、爆発的な股関節伸展力が生まれ、それによって離地することができる。当に重力を利用した力の発揮となります。
大腰筋もさることながら、アフリカ系スプリンター達のお尻や太もも裏側の筋群も非常に発達していますよね。
それに比べ、太ももの前やふくらはぎの筋肉はそれほど大きく発達していない。これは足首や膝まわりの力で必要以上に地面を蹴っていないことを意味しています。
このように、❝姿勢の違い❞が❝動作の違い❞となって、筋肉の「活動部位」、「活動の仕方」、「活動の強さ」、ひいては「発達の度合い」を変える。世界のトップ選手は大腰筋が発達しているから速いのではなくて、その活動が高まる動作で走れているから速い。
その動作を可能にしているのは、骨格の位置、つまり❝姿勢❞によるところが大きいんです。
【Q:筋肉を鍛えるというよりも、姿勢や動作が大切だということなんですね。U.G.Mトレーニングはそこを重視しているということですか?】
もちろん、筋力が重要じゃないわけではありません。
ただ、どういった筋群がどのような活動の仕方で力を発揮しているのかということが、より大切だと考えています。そのためには、適切な❝姿勢❞やそこから生まれる❝動作❞が欠かせない要素になるんです。
それが伴ったトレーニングであれば、必要な部位の筋肉が必要なだけ発達してくれる。
むしろ筋肉にクローズアップするというよりも、動作の改善を第一に考え、それを図りながらトレーニング強度を少しずつ上げて行けば、筋肉の機能は後付けで自然と上がって来るものだと考えています。
重力を利用して効率的に力を発揮するためには、それができるだけの身体の動かし方があって、またその動作を行うために必要な姿勢があるということです。
姿勢が崩れてしまっている場合、身体の連動性や力の伝達などを上手く引き出せず、効果的な動作でのトレーニングが難しくなる。結果、筋肉単体のトレーニングに終始してしまう。
こうなると、実際の動作に必要な筋肉の機能や身体の連動性も改善するどころか、悪くなる。
合理的に負荷を処理するための動作感覚、つまり、重力を利用した動作感覚がどんどん失われて行ってしまうんです。
【Q:つまり、「見せるための筋肉」ではなく、「使える筋肉」を鍛えるという感じですか?】
表現の仕方はいろいろあると思いますが、実際の動きにつながるようなトレーニング動作によって、筋肉だけではなく、神経系も含めて運動機能を高めて行くということです。
先ほど、姿勢や動作が筋肉の活動に及ぼす影響について、走動作を例に挙げましたが、これは走る動きに限ったものではなく、実は、跳躍や投動作、さらにトレーニング動作も含め、重力下において行う、ほとんどすべての動きに共通して言えることなんです。
例えば、肩に重りを乗せて行うスクワットも、「胸腰椎後部の伸展」と「骨盤の前傾」が伴った姿勢で、「しゃがみ動作」を行うと、まず肩にかかった重りが肩甲骨を背骨側へ押しやるように下げます(肩甲骨の下制・内転・後傾・下方回旋)。

そして、この肩甲骨の動きがきっかけとなって、「胸郭の拡大」→「胸腰椎移行部の伸展」→「骨盤の前傾」といった運動連鎖が「しゃがみ動作」において、高まる。
この骨格の連動は、主に体幹部前面から側面にかけての筋群と、殿筋群(お尻の筋肉)およびハムストリングス(太ももと裏側の筋群)の伸張を強調するため、❝しゃがみ動作❞から❝立ち上がり動作❞に切り替わる際、その伸張された筋群の弾性エネルギーや、神経的な反射作用を利用した力の発揮を効率よく引き出すことができる。
この時の骨格の動きと筋肉の活動は、走動作や投動作などで、踏み込み脚にかかる荷重を理想的に処理するときのそれと非常に近いものになります。
そのため、実動作の強化、競技力の向上につながりやすいんです。
もし、「猫背」や「骨盤後傾」といった不良姿勢でスクワットを行った場合、「しゃがみ動作」において、これとは真逆の運動連鎖が生じます。
上半身が前方へ倒れ、背中から腰が丸まり、骨盤は後傾を強めながら、膝が前方へ折り曲がる。
そうなると、骨格による支持機能をうまく活かせなくなり、背中から腰、そして膝にかかった大きな負荷を腰や太もも前側の筋力によって処理することとなる。
骨格の動き、筋肉の活動ともに真逆となるので、それによって得られる効果も、当然、真逆のものになります。
この「負の効果」は、理想的な動きにブレーキをかけるような作用となってしまうため、トレーニングを頑張るほど、かえってパフォーマンスが落ちてしまったり、不合理な動作が身体への負担を強め、故障のリスクを高めてしまう。
【Q:トレーニングの効果を上げて行くには、「胸腰椎移行部の伸展」と「骨盤の前傾」が大切ということですね。】
はい、U.G.Mでは、基本姿勢として、「胸腰椎移行部の伸展」と「骨盤の前傾」が、自然にとれていることが理想的だと考えています。

トレーニングでも、この姿勢が取れるようにアプローチして行きます。
これは、そのポジションをとるための筋力を鍛えるということではなく、ただリラックスして立つだけで自然と骨格がその位置に収まるような身体の状態をつくるということです。
「胸腰椎移行部の伸展」は、鳩尾ぐらいの高さで背中が伸展した状態ですが、これを意識して行うと、ほとんどのケースで、背中の筋力を使って肩を後方に引っ張り、胸を張って背中を反らそうとする。
これは背中の筋力によって努力的に作った姿勢なので、疲労しやすく、頑張って維持しようとすると背中の筋肉は疲労してパンパンに張ってしまいます。
見た目は良さそうでも明らかに不自然な姿勢だと言えます。
「骨盤の前傾」、これも同様で、意識して行うと、だいたいのケースで、腰を筋力によって反り上げ、お尻を上方に引き上げるようにして無理に骨盤を前に倒そうとする。
こうなると、いわゆる「反り腰」が強調され、筋肉、骨格ともに腰への負担が強まり、腰痛を引き起こす原因になります。
じゃあ、この姿勢は元々無理な姿勢なのかというと、そうではなく、意識して筋力を使わなくても身体にかかる重力によって、自然と引き出されるものなんです。
何の重力かというと、腕の重力です。
実は、腕の重さを受けるだけで自然とこの姿勢へ向かった運動連鎖が起こるんです。
腕は肩関節で肩甲骨につながっていますので、頸肩部や胸部の筋肉が柔軟でリラックスした状態にあれば、腕の重さがかかるだけで肩甲骨は下方に下げられます。
肩甲骨が下がると、その外側の端でつながる鎖骨は後方へ広がり、このとき、胸や側胸部の筋肉は伸張される。
その張力は肋骨を広げるように作用し、広がった肋骨は背中でつながる胸椎を前方へ押し出します。
身体の構造上、最も伸展されやすいのは最下部の胸椎なので、胸腰椎移行部が伸展されるんです。
このように、腕の重さが肩甲骨にかかるだけで、運動連鎖によって、胸腰椎移行部は自動的に伸展します。
そして、この上半身の運動連鎖は、その下方に続く骨盤の連動へと続いて行く。
腰椎は、元々前弯をしていて、軽く反った状態にあります。
胸腰椎移行部が伸展すると、上部腰椎(第1、第2腰椎)が前方へ押し出されるため、腰椎は元々ある生理的前弯によって、上部腰椎を起点に前方への傾斜を強めます。
その結果、後部腰椎(第4,第5腰椎)はより後方へ位置することとなり、それに続く骨盤は自然と前傾位になるんです。
これは、腰椎の❝前弯❞が強調されたのではなく、❝傾斜❞が高まった状態であるため、いわゆる「反り腰」ではなく、腰への負担が増すことはありません。
【Q:結局、姿勢をつくるのも筋力ではなく、重力を受ければ良いということなんですね。そう考えると簡単に良い姿勢がとれそうな気がしますね。】
はい、ただ、そのためには、重力に抵抗するのではなく、重力を受け入れる感覚や、腕の重さを受けるだけで、スムーズに動いてくれる関節の動きやすさ、そして、それに関連した筋肉の柔軟性が必要になって来ます。
実際、筋力は充分なのに、このような要素が欠如してしまっているために、姿勢や動作が崩れてしまうことが多いんです。
この場合、当然のごとく、頑張ってトレーニングを行っても、競技力が向上しなかったり、故障が多くなったりする。

U.G.Mトレーニングでは、身体の連動性や神経系の反射作用を利用した独自のトレーニング様式によって、重力をはじめとした負荷を受けることで、出力を生み出す動作感覚を身につけて行きます。
その過程で、筋力アップだけではなく、筋肉は柔軟に、関節は動きやすくなって、運動機能が改善して行くんです。
【Q:U.G.Mトレーナー養成講座が来年1月より開講しますが、そういったトレーニング方法などについて教えてもらえるのですか?】
はい、来年1月より開講する本講座では、U.G.Mトレーニングの理論と実際のトレーニング方法について解説をして行きます。
マシントレーニングだけではなく、フリーウェイトトレーニングも含めると50種目ぐらいはあるので、1年がかりで進めて行きます。
ただ、U.G.Mトレーニングと言っても、実際どんなものなのか、なかなか理解しづらいと思いますので、本講座に先立って、「Oneday概論講座」をやらせていただいて、U.G.Mトレーニングの概要や動作の基本となる「姿勢」についてお話をさせていただきます。
【Q:One day 概論講座を受講すると、どんな形で活きてきますか?】
会員様の中にはアスリートを指導されている方もいらっしゃるんですが、姿勢の話をすると、本当はどういう姿勢がよいのか、また、どういう伝え方で指導すればよいのか、先生ご自身も分からないというお話を伺うことがあります。
実際、トレケアでトレーニングをされている方もそうなんですが、もうさすがに連動の感覚をつかめているだろうなって思って聞いてみると、肩甲骨の動きが、胸椎や骨盤の動きにつながっているということを感じられていない方は結構いらっしゃいます。
こういったことを身体の構造に則って、理論的に説明させていただければ、理解を深めていただけるのではないかと思います。
姿勢は動作の基本となるので、その理解が深まれば、求めて行きたい❝身体の使い方❞もイメージしやすくなるんじゃないでしょうか。
講座では、「こういう負荷の受け方をすると身体はこんなふうに動かされて行きますよ」といったようなことを解剖学的に少し詳しくお話させていただきますので、トレーニングを行うにあたって、動作中に、骨格や筋肉の動きが頭の中で画像として浮かびやすくなるかと思います。
そうなると、「今こう負荷を受けたことで鎖骨や肩甲骨がこんなふうに動かされている、肋骨はこう動かされている」といったようなことが具体的にイメージしやすくなる。
具体的なイメージは実際にその動きをより高めてくれますので、動作一つ一つの精度が上がって行きます。
私も、トレーニングの動作指導では、漠然と「鎖骨がこんな方向へ」とか、「肩甲骨がこんな感じで」とか言いますけど、実際の骨の動きを具体的にイメージできている方がどれだけいらっしゃるかというと、ほぼいらっしゃらないんじゃないかと…。
そこで、講座で得られた知識をご自身のトレーニングや指導の現場において、活かしていただければと思います。
【Q:どんな方に参加していただきたいですか?】
まずは、機能改善系のトレーナーをされている方や目指している方、または各種スポーツコーチの方ですね。
人の体を見ていくうえで、軸になるような考え方を模索しているトレーナーさんや、スポーツコーチの方に来ていただきたいです。
あとは、鍼灸師、柔道整復師など、治療家の方で、治療の一環としてトレーニングを取り入れている方や、今後、それを考えている方にも興味を持っていただけると嬉しいです。
もちろん、ご自身がスポーツやトレーニングを実践されていて、こういったトレーニング理論にご興味のある方や、ご自身のトレーニングに活かしたいと考えていらっしゃる方も大歓迎です。
来年、本講座を開講しますが、受講を考えていらっしゃる方にとっては、「入り口的な講座」になりますので、まずは導入として一度、「概論One day講座」を聞きに来ていただくことをお勧めします。
そこで手応えを感じていただければ、ぜひ本講座を受けていただけると嬉しいですね。
【Q:U.G.Mトレーニングを治療家の方にオススメする理由は何ですか?】
治療院に行っても一時的には良くなるけど、すぐにぶり返す。
つまり根本的に改善できていないという方は少なくないです。
そういう場合、多くの方が“施術だけで終わってしまっている”ケースが非常に多い。
楽になったら、その時は治ったという気がしますけど、慢性的な不調の原因は、普段の姿勢や動作のクセだったりすることがとても多い。
その場合、そこにアプローチして行かないことには、根本的な改善は見込めないんです。
つまり、姿勢や動作を改善するためのトレーニングが必要になる。
それを感じていらっしゃる治療家の方も少なくなんじゃないかと思います。
そこにU.G.M理論を活かしていただければ嬉しいですね。
【Q:最後に「U.G.Mトレーナーの養成講座」を開講する一番の理由は何ですか?】
これは、今になって思ったわけではないんですが、いずれはやらないといけないと考えていました。
正直に言うと、U.G.M理論の創始者である大野会長(ボディコンディショニング リフレクサ代表)が、いつかやられるだろうなと思っていて、私はそれをサポートさせていただけたら有難いなっていうぐらいに考えていました。
このタイミングで開講を決めたのは、大野会長も私も、自身のパフォーマンスを維持しながら現場に立ち続けることが、年齢的、体力的にあとどれぐらいできるだろうと考えたときに、同じ思いで現場に立ってくれるようなトレーナーさんが、後に続いてくれたら心強いと思ったのがひとつです。
生意気な言い方になってしまいますが、人を育てるには、ある程度の時間が必要だと思いますので、そういった意味でも早く始めるべきかなと思いました。
ただ、これを大野会長に話したらご本人はまったくそんなこと思っていらっしゃらず、人生の最後まで現場に立つとおっしゃていました。
会長の体力やトレーニングパフォーマンスを見ると本当にそんな感じがしますけどね(笑)。
講座では、私が今までの経験で得られたや知識や技術的なものもお伝えさせていただくわけですが、私自身が、トレーニング指導の現場で充分に動くことができるうちのほうが、受講者の方に、自身のパフォーマンスも含めて、より実践的なものを提供できると考えました。それで、やっぱりこのタイミングかなと。

今、うちの施設には、ありがたいことに、遠くから来てくさる方もいらっしゃって、県外からは神奈川、茨城、埼玉、栃木から長い時間をかけて定期的に通ってくださっています。
その方たちは、U.G.Mトレーニングを行えるジムがご自宅の地域にあれば、もっと通えるのにっていうことを口をそろえて仰います。こういったことも、後押しになっていますね。
トレーナーを養成させていただいて、そのトレーナーさんが、ご自身の地域でU.G.Mトレーニングジムを開いてくれたらいいですよね。
トレーナの育成というのであれば、スタッフとして雇用して、現場で育てるというやり方もありますが、あえて、「講座」というカタチをとったのは、大野会長がU.G.M理論を解剖学的に体系立ててまとめてくださったことで、一つの❝動作理論❞として論理的に説明させていただくとができる。
そして、それをきちんと受講者の方に理解していただけると考えたことが一つの理由です。
また、「解剖学」や「生理学」も併せて学びを進めていくことで、より理解が深まるので、それを学んでいただく時間も必要だと考えました。
受講者の方には、講座を通して「U.G.M認定トレーナー」の資格を取得していただくわけですが、知識や技術の修得や、それを証明するための資格は、もちろん、とても価値のあるものだと思います。
ただ、私はそれよりも、「講座」に臨むといった行動がそれ以上に大きな価値を生むと考えています。
講座を受講して、知識や技術を身に着け、資格を取得するには、「お金」、「時間」、「労力」を要します。
そして、そこには、それをかけて臨むだけの「意欲」と「覚悟」が必要になります。
おそらくですが、これがないところで、何かを得られたしても、それをうまく活かせなかったり、場合によっては簡単に放棄してしまう。そういことになりやすいんだと思うんです。これはもったいない…。
受講される皆様には、かけたものに見合うだけのものを身に着けていただいて、それを十分に活かしていただきたいと思います。
私もそうしていただけるように全力で取り組んでいきます。

(2025年10月取材)