ヒトは動物に比べて大脳が非常に発達しているため、意識的に特定の筋肉や関節を動かして動作をコントロールすることが得意です。
「考えて身体を動かすことができること」
「手・足などの四肢末端が器用であること」
これらはヒトの長所でもあり、スポーツなどで新しい技術を身に着ける過程や、繊細なコントロールを要する競技ではある程度、必要な能力でもあります。
そのため、選手は、よりパフォーマンスを上げるためにどう動けば良いのかを考えながら練習します。
例えば、
速く走るために「膝や足首を強く伸ばして地面を蹴る」
速い球を投げるために「勢いよく肘を伸ばし、手首で球を弾く」
など。
このように、スポーツの現場では四肢末端を意識的にコントロールして練習を行う場面が多く見られます。
これは、一流選手の動作を参考にするうえで、体幹部の動きよりも四肢末端の位置や使い方の方が視覚的にその特徴を捉えやすく、肘の位置や手の使い方、膝の角度や足の着き方などが参考にされやすいこと、また、四肢末端の方が体幹部よりも意識的にコントロールして動かしやすいということが影響していると考えられます。
実は、一流選手ほど、腕(手)・脚(足)の位置や動きが体幹部との連動の結果として、自然に現れていることが多いのですが、、。
四肢末端部を意識的にコントロールして使う傾向は、成長するにつれ腕や脚の筋力が発達して行くことで、より目立って来ます。
腕や脚で、ある程度の力が発揮できれば、意識的に操作しやすい四肢末端を使った方が、仕事をするうえで簡単だからです。
これはスポーツに限らず、日常生活動作でも同じことが言えます。
しかし、主に四肢末端部を意識的にコントロールした動作を繰り返し行ってしまうと、腕や脚の力をメインに使うことに慣れてしまい、子供の頃には自然にできていた、重力を利用した体幹部筋群の張力の使い方を忘れて行ってしまうのです。
強い力を効率良く地面やボールなどの対象物に伝えるには、体幹部から発揮された大きな力が四肢末端の手や足へ伝達されることが理想です。
また、このような力の伝達は、四肢末端部がリラックスしていることで可能となります。
しかし、腕や脚の力をメインに使った場合、それらの筋肉は緊張してしまいリラックスすることができません。
そもそも、腕や脚など末端の組織は、その骨格や筋肉のサイズを見ても大きな力の発揮には適していません。
また、体幹部ほど強い力に耐えられる構造も持っていないのです。
当然、その負担は過剰となり、手首や肘、足首や膝などを傷めてしまうリスクは高まります。
さらに、このような力の使い方では腕や脚の末端の筋肉が過度に鍛えられ、必要以上に大きくなってしまうこともあります。その場合、その重さで四肢をスムーズに振れなくなり、速い球を投げたり、速く走ることがかえって難しくなってしまいます。
末端の筋肉が過度に肥大し、重くなった腕や脚を無理に強く、また速く動かす動作を繰り返せば、肩関節や股関節にかかる負担も大きくなってしまうことは容易に想像できます。
かつて、オリンピックで3連覇を成し遂げた、超一流男性柔道家の言葉が印象的です。
「僕の握力は現役時代でも40kgしかなかった。20代成人男性の平均が45kg前後であることを考えると競技者としては相当弱いです。ベンチプレスも60kgしか上がらなかったし、腕相撲も相当弱いので挑戦されると迷惑です(笑)。握力(腕力)と、相手を投げるために必要な力は別物だと思います。」
因みに、この選手の現役時代の得意技は相手の襟をしっかり掴んで投げる「一本背負い」でした。
なんとも、正しい力の使い方を考えさせられる話です。