ブログのアップ、大変に遅くなってしまい申し訳ありません(泣)。
だいぶ感覚が空いてしまいましたが、前回の続きでU.G.M(利重力身体操作法)的な肩関節機能の考え方についてお話をしていきます。
インナーマッスル(ローテーターカフ)をはじめとした肩まわりの筋群の硬化・短縮は、肩関節内での上腕骨頭の正常な動きを崩しスムーズな関節の動きに制限をかけます。
そして筋や軟骨などの軟部組織への圧迫ストレスや摩擦ストレスを強め、これが肩関節の障害リスクを高めます。
関節の動きは筋が収縮して力を発揮することで行われますが、このとき主に力を発揮する筋を主動筋(しゅどうきん)と呼び、この主動筋に対して反対の作用をする筋を拮抗筋(きっこうきん)と呼びます。
通常、拮抗筋は関節をはさんで主動筋の反対側に位置しており、主動筋が収縮して力を発揮するとき拮抗筋は伸張します。腕を上げて行く動作(挙上動作)では、肩関節の上部に位置する棘上筋や三角筋といった筋が主動筋として作用し、このとき肩関節の後下部に位置する棘下筋や小円筋といったインナーマッスルや、アウターマッスルに位置づけられる大円筋、上腕三頭筋、広背筋などは拮抗筋となって伸ばされます。



拮抗筋が充分に伸ばされれば動作はスムーズに行われるのですが、これが硬化・短縮していると十分に伸びることができず肩関節の挙上動作にブレーキをかけることとなります。
このような場合、肩を上方へ引き上げるよう代償動作が生じやすく、「いかり肩」のような肢位となり、頭頚部の後面から肩甲骨へと走る肩甲挙筋や僧帽筋(上部線維)といった筋が短縮しその緊張を強めます。
肩甲挙筋は棘上筋と、僧帽筋の上部線維は三角筋とそれぞれ筋膜を通じたつながりが強く、そのため棘上筋や三角筋へも緊張の連鎖が生じます。


また拮抗筋群の硬さによる動きの制限に打ち勝つためにこれらの主動筋群はより強い力を発揮しなければいけなくなるため、無駄な力みが生じやすくなり、スムーズな動きが妨げられます。
野球の投球動作やテニスのサーブなど、スポーツ活動では腕を高く振り上げるシーンが多く見られますが、このような状態で上肢の挙上動作が繰り返し行われると、主動筋群は酷使され疲労します。
日々の練習や試合により回復が間に合わなくなると筋疲労は慢性化し疲労した筋は凝り固まり短縮して行きます。そして硬く短縮したこれらの筋群は常に肩を上方へ吊り上げるように作用し「いかり肩」のような肢位が常態化されていくのです。
このような肢位では肩関節内での適切な骨の位置や動きは崩れます。
ヒトは繰り返し行う動作を学習してしまうため、必要以上に力んだ動作や関節内での崩れた骨の動きに慣れ、このようなストレスの高まる肢位や動作に対し何の違和感も感じなくなってしまうのです。
上肢の挙上動作では動きの高まりにつれて上腕骨頭が後下方へと滑り、肩甲骨も下方へスライドして行くのが理想です。
この上腕骨と肩甲骨の連動(正確には鎖骨も含めた動き)が「胸郭の拡大」および「胸椎の伸展」といった体幹部の連動を引き出し、これにより動作はスムーズに行われます。
しかし、上述のような肩まわりの筋群の緊張があると肩関節を構成するこれらの骨は常に上方へと牽引され、下方への動きが妨げられてしまうため正常な骨の位置や関節の動き、そして上肢と体幹部の連動性が崩れます。
この状態では、上肢から体幹部への負荷の伝達や体幹部から上肢末端部への筋出力の伝達は困難となるためスポーツ活動で要求されるような大きな力を身体の連動性により合理的に生み出すことが難しくなります。
棘上筋をはじめとした肩のインナーマッスルのはたらきは肩関節の安定性に重要とされ、これらの筋を意識的に強化するようなトレーニングが積極的に行われています。
しかし、上述のようにある筋が硬くなってしまうことで筋群間の緊張の連鎖が生じ、その十分な伸縮性が失われることにより筋が機能低下に陥っているケースが少なくないのです。
このような場合、単にインナーマッスルの筋力強化といったアプローチは筋緊張の程度をかえって強め、時に負の効果をもたらします。
またインナーマッスルやアウターマッスルを意識的に使い分けることは非常に困難です。
ましてやスポーツの場面では刻々と変化する戦況への対応や高度な技術が求められるため、筋の活動を意識する余裕などないのです。
フォーカスすべきポイントは、まず自然肢位および動作時での肩関節の位置、およびそれに伴う肩関節内の骨の位置や動きは適切であるかどうか。
また、肩まわりの筋をはじめとした軟部組織の柔軟性が十分であるかどうか。
もしそれが不十分なのであれば、筋力を高める前にまず柔軟性を取り戻すこと。
そして不適切な肢位での動作において学習されてしまった動作を修正することです。
具体的には、筋の柔軟性のバランスを整え、過剰な力みを伴った筋活動や筋群間の活動順序の乱れ、そして「転がり運動」や「滑り運動」といった適切な骨の動きによる関節の可動と、それに伴う身体の連動性を修正することが重要となります。
つまり、特定の筋単体の収縮力を強化するのではなく「姿勢(肢位)」と「動作」の再構築を図ることが本来取り組むべき課題となるのです。