「腰って、反っちゃダメなんですよね?」
トレーニングサポートや施術に携わるなかで、とてもよく聞かれる質問です。
腰痛をお持ちの方や、腰を痛めた経験のある方は医療機関やリハビリの現場などで、「腰は反ってはダメ!!」と指示されることがよくあるようです。
しかし、腰は生理的前弯といって、元々反っています。
腰が適度に反っていることで、脊柱に自然なS字の弯曲が生まれ、これにより脊柱にかかる負担は軽減されています。
では、どうして「腰を反ってはいけない」と言われてしまうのか、、?
それは、、
「腰だけが過剰に反っていたり、腰椎の一部分が極端に反ってしまうケースがあるからです。」
「反り腰」となる要因として、骨盤が前傾した位置にあることがよく指摘されます。
前回お話しした通り、姿勢の維持や動作において、骨盤はやや前傾位にあることが望ましいのですが、これが「反り腰」、ひいては「腰痛」の一要因とされてしまうのです。
これは、骨盤が前傾することで、その上に連なる腰椎、とりわけ、骨盤の中央にある仙骨と直接つながる第5腰椎(L5)、そして、その上の第4腰椎(L4)が前下方へ強く傾斜していたり、そこを起点に腰椎が反り過ぎてしまうことがあるからです。
「反り腰」では、最も前弯が強調された部分に荷重ストレスが集中しやすいため、腰部の障害もこの下部腰椎(L4、L5)に多く見られます。
このように、ある関節を挟んで、その下位に位置する部分(この場合、骨盤)の位置や動きが、より上位にある部分(この場合、腰椎)の状態に影響することを上行性運動連鎖といいます。
じゃあ、「反り腰」の原因となり、腰痛を誘因してしまう「骨盤の前傾」って、やっぱりダメじゃん!!
ということになってしまいそうですが、、。
ここで逆の発想をして行く事とします。
つまり、上行性の運動連鎖ではなく、下行性の運動連鎖を考えるのです。
U.G.M.(利重力身体操作法)では、身体のある部分のある動きを引き出すことができれば、腰の負担を強めることなく「骨盤の前傾」を引き出すことができると考えています。
そのある部分とは、、そう、それは下部腰椎の上に位置する胸腰椎移行部(第11胸椎~第2腰椎)です。
そしてある動きとは、胸腰椎移行部の伸展です。
胸腰椎移行部が伸展すると、上部腰椎(L1、L2)の前弯が充分に引き出されます。
すると、腰椎は胸腰椎移行部を起点に、元々備わる生理的前弯を保ったまま前下方へと傾斜するため、下部腰椎(L4、L5)をはじめ、一部分の弯曲が強調されることがなくなります。
そして、骨盤はスムーズな腰椎のカーブに沿うように自然に前傾します。
このプロセスでは、腰椎が部分的に強く反るようなことはなく、腰にかかる荷重はバランスの取れた腰椎のカーブを通過し、上は胸腰椎移行部へ、下は股関節へと伝達されるようになります。そのため、腰部へのストレスは大幅に軽減されるのです。
腰椎に元々備わる前弯は腰椎レベルでその負担を分散するというより、胸腰椎移行部や骨盤部に負荷を逃がすように作用していると考えられるのです。
このように、胸腰椎移行部の伸展は、腰椎の生理的前弯の維持とそれに伴った無理のない骨盤の前傾を促します。
この時に大切になるのは、お尻の筋肉(臀筋群)や太もも裏の筋肉(ハムストリングス、大内転筋)など、股関節後面に位置する筋群の柔軟性です。
これらの筋肉が硬くなってしまうと、骨盤を後傾するようにはたらいてしまうため、この下行性の運動連鎖が崩れてしまうのです。
このような状態で骨盤の前傾を作ろうとした場合、臀筋群やハムストリングスの硬さに打ち勝つために腰の筋力で腰を反り、無理に骨盤を引き上げざるを得なくなります。当然、腰にかかる負担は筋肉、骨格共に非常に大きなものとなってしまいます。当に骨盤の前傾が腰痛を引き起こしてしまう状態です。
トレケアのトレーニングでは、臀部や大腿後面の筋群を柔軟に鍛えることをとても重視しています。
これは、運動機能を高めるためだけではなく、腰をはじめとした身体への負担をなくすためでもあるのです。
骨格的な安定性や力発揮の合理化において、とても有益な肢位である「骨盤の前傾」ですが、腰に負担をかけずに、このポジションを取るためには、下行性の運動連鎖を引き出すために十分な「胸腰椎移行部の伸展」と「骨盤の前傾」を妨げることのない股関節後面筋群の柔軟性が不可欠となるのです。